北陸紀行vol.1-北陸の渓

仲間内で密かにある噂が広まっていた、「北陸の渓は凄いらしいぞ」。 だがいかんせん豊橋からは余りに遠くすぐに見に行けない為、誰も真実は分からずじまいだった。 当時アパレルのお店をやっていて夏休みもそれなりにあったので、思い切って夏休みの5日間を使い友人と2人して北陸を開拓しに行った。

凡その見当は付いていたが、現地に着くとさっぱり分からず、あちこちさ迷ってる内に暗くなり始め不安が募るばかり。 ようやく目的の川の辺に付いたのは6時を少し回り、大慌てで支度をして訳の判らぬまま目の前の流れから釣り始めた。

枝分かれした浅い分流に1投目を流したとたんだった。尺岩魚がフライに躍り出たのだ。あっけに取られ合わせる事も出来なかった。 なんなの?、この川?。それから真っ暗になるまで、今まで見た事の無い光景を何度も見せ付けられた。 早い流れや深いプールで何本もの大型魚雷がフライに飛び掛って爆発し、その度に頭の中が真っ白になっていく。 真っ暗な中、車にたどり着いて放心状態のまま友人を待った。勿論、友人も同じ状態で戻ってきた。

翌日も同じ川に行き、真夏の日中にもかかわらず面白いように岩魚が飛び出してくれたのだ。 5日間の間、他の川も試したがどの川も規模など関係なく、小さな川から大河川まで同様に豊饒なる川なのだ。 その年は残念ながら2度目の釣行は出来ず、翌年を待つ事になった。

※写真注釈:履いているウェーダーは懐かしいレッドボールのもの。 ゴアテックスが発表されるまで、多くのフライマンはラテックス生地かPVC製生地のウェーダーを使っていましたね。透湿性ゼロの生地ゆえ夏場はサウナスーツ状態。 でも、ウェーダーの上から靴を履くというかっこよさから、みんな我慢して使ってました。

翌年、雪代が終わるのを待って北陸を目指した。川は乳白色の色でまだかなり増水していたが、此処まで来たら釣るしか無い。 5Xのティッペットに#10のエルク・ヘアーカディスを付け轟々と流れる川に投じる。 白泡混じる流れに翻弄されながらもフライは流れるが、圧倒される水圧に#10のフライでさえ心細くなる。

何箇所かポイントを流し釣りあがると、目前に2つの大きな流れがぶつかる大場所が現れた。 ポイントを見たとたんすぐ予感が走った「ここは居る」。 慎重に回り込み、クロス・キャストでフライを2つの流れがぶつかる内側2m上流に落とすと、フライがゆっくり流れ始める。 やがて流れが合わさるすぐ手前にきた時だ。大きな灰色の背中がフライのある流れごと咥えこみ沈んでいった。

ドンッ、と合わせをくれるとズドンと重さが竿にかかり激しくローリング。そしてそいつは一気に下流に走り抜けていった。 恐らく1秒くらいの出来事だろう、流れ下ったラインを巻き取り今起こった事を頭の中でフィードバックする。 ヤマメに違いない。それにしても何だあのパワーは!、今まで味わった事の無い強さだ。 やはりこの川にはとんでもないのが居るぞ。未練たらたらの気持ちをすぐに切り替えて釣りあがる。

そのポイントから100m上がった所に再び好場所が現れ、ここも絶対いると信じ白泡の中を何度も何度も流すと、大きな魚体が白泡を割って飛び出した。 さっきのと負けず劣らずのサイズだ。 ただ全体が茶色っぽかったような気がしたが、今度はのがすまいと、一直線に走る魚に転げるようについて走り下る。 途中、何度も石の下に潜ろうとする魚の強い引き込みで、当時の愛竿コロラドが根元までへし曲がってギシギシ音を立てている。

50mも走らされたところでようやく魚も止まり緩い流れに誘導し、ネットに入れようと寄せると思ったとおり岩魚だった。 それにしても強い。流れの中を直線的に走り回る岩魚なんて見た事無いぞ。そして何て見事な魚体だろう。 岩魚好きには堪えられない出会いだった。この日はこの川の上流も釣り、充実した1日を過ごせたのだが、 どうしても朝のあの魚が頭から離れない。どんなヤマメなのかこの目で見てみたく、翌週、再び同じ流れに立っていた。

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